ソフトバンクの動向
先日、通信大手のソフトバンクグループがサウジアラビアと10兆円規模のファンドを設立することがニュースとなりました。
サウジアラビアは脱原油政策で。ソフトバンクはファンドの投資先企業との提携で世界的な戦略を目指すことになります。
10兆円ファンド
設立されるファンドはテクノロジー分野への出資を行うもので、ファンド名は「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」となります。
ソフトバンクグループは今後5年間で250億ドルを出資。サウジアラビア側のパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)も5年間で最大450億ドル出資する予定です。
ファンドは世界の投資家にも参加を呼びかけており、総額で1000億ドル規模のファンドになる可能性があるとしています。
なお、設立されるファンドは英国子会社が運用し、ソフトバンクグループの連結対象となる予定です。
ソフトバンクの孫正義社長は今回のファンドについて、テクノロジー企業への発展に寄与するもので、情報革命が加速する、と述べました。
サウジアラビアにとっては最近の原油価格の低迷で経済的に打撃を受けており、同国のムハンマド副皇太子が主導して行っている石油依存からの脱却を急いでいます。
同国国営のサウジアラムコのIPOと同じように今回のファンド設立も石油依存からの脱却の一環となります。
活発なソフトバンク
今回の10兆円ファンド設立の額は巨大です。サウジアラビアとの協同ですが、これから変革が起きそうな国との設立なのでこれが吉と出るかどうか。
しかし孫社長はアリババの件もあるように先見の明があるので注目です。
株式売却
最近はソフトバンクの動きが活発です。
2016年6月には7割超出資していたフィンランドのスマホ向けゲーム会社スーパーセルを中国のネットサービス大手のテンセント・ホールディングスの関係会社に売却すると発表しました。売却額はおよそ73億ドルです。
ソフトバンクは「クラッシュ・オブ・クラン」などの人気ゲームを提供しているスーパーセルの株式を2013年に15億ドルで取得。株式の51%を保有しました。
2014年には追加取得し、保有比率は72.2%となりました。
スーパーセルのテンセントへは全株式売却で、そのリターンは受取配当金と合わせて、およそ84億ドルとなりました。これは投資額の2.9倍です。
売却理由は、財務体質の強化や資本配分の最適化、と説明しています。
またソフトバンクは、中国の電子商取引のアリババ・グループ・ホールディング株の一部を売却。88億ドルの資金を調達します。
さらにガンホー・オンライン・エンターテイメント株もおよそ730億円で売却が決定しました。
これにより出資比率はアリババが5%下がり27%。ガンホーは23%下がり2.3%となります。
今回のすべての売却で得る資金は2兆円に迫ります。
配当
先日、同社はホームページで完全子会社のSBチャイナ・ホールディングスが2兆3728億円の配当を決定したことを伝えました。
株式売却と配当で得た資金が兆越えなのもすごいですが、子会社から配当てなんか不思議ですね。不思議というよりも、あくどい感じがするのはわたしだけですね。問題はないのでいいのですが。
さて、時間の前後は別としてソフトバンクグループが今回得た資金は単純に合計すれば4兆超となります。
これらの資金はヤフー株の買い増しかと思われましたが違ったようです。
売却資金の使い道
最近はソフトバンクグループのニュースが目立ちました。
自社株買いから消却
ソフトバンクグループは2016年8月までに5000億円の自社株買いを行っていました。
自社株買い後の株の使い道は決まっていませんでしたが、10月7日に同社は、発行済株式の8.33%にあたる1億株を消却すると発表しました。7日終値でおよそ6500億円となります。消却は10月31日を予定しているということです。
ARM買収
さらにソフトバンクグループは大きな買収で世界をアッと言わせました。
2016年7月、同社は巨額な資金を使い英国半導体設計企業のARM(アーム・ホールディングス)を買収しました。
アームの買収金額はおよそ3.3兆円となりました。そのうち1兆円はみずほ銀行からの融資。残りの2.3兆円は手元資金で都合しました。全額キャッシュで支払います。
買収完了後はアームを100%子会社とし、上場廃止を行う計画です。
この買収のニュースはメディアではそれほど大きく取り上げられませんでした。アームという会社自体知られていないのが理由にあります。
アームは「半導体設計」ビジネスが柱です。製造ではなく「設計」です。
パソコンに搭載されているCPUで圧倒的なシェアを独占しているのは半導体メーカーのインテルです。知らない人はいないと思います。
半導体メーカーはインテルのように開発から製造まで、すべて自社で行う企業もあれば、クアルコムのように開発と販売だけを行い、製造は他社に任せる企業もあります。
アームも以前はPC向けのCPUを開発していました。有名どころではアップルのニュートンというモバイル機器に搭載されましたが、ニュートン自体が成功せずに終わり、アームに光が当たることはありませんでした。
アームはPCで使われる高速・高性能のCPUから、低消費電力のCPU事業へと変わっていきました。
さらにアームは自社で半導体を製造することはなく、半導体設計に特化するビジネスモデルの道を選びました。
幸運にも世界はPCからモバイルであるスマホ、タブレット端末へと向かっていきました。
低消費電力分野で先行していたアームに注目が集まり、半導体メーカーはアームから半導体設計のライセンス料を払い、自社で製造することにしました。
アームは半導体メーカーに低消費電力の半導体設計データをライセンス提供することで成功しました。今で言えば『知的財産ビジネス』とでも言うのでしょうか。
インテルはアームの牙城を崩すため、モバイル用のCPUである「アトム」を開発しましたがアームの敵ではありませんでした。
PCではインテルの天下ですが、モバイル分野ではアームのライセンスシェアはおよそ95%とも言われています。
顧客にはアップルやインテル。クアルコムやサムスン電子などビックな名前が並んでいます。
アームの売上高はおよそ1500億円です。インテルの5兆円超という売上高の足下にも及びませんが、モバイル端末に強いアームの成長はこれからですし、データセンターなども低消費電力に注目しているのでアームの影響力は強まる一方かもしれません。
テクノロジー企業を目指すか
アームの買収が吉と出るか凶と出るかわかりません。
現段階ではライバルはいませんが、もし対抗する企業が現れればアームの盤石だったモバイルシェアが揺るぐことになります。
ライバル企業が現れなくても、内部技術者が独立などを行いライバルにならないとも限りません。
ただ、今のソフトバンクはいけいけ状態です。
サウジアラビアとのテクノロジー企業に投資するファンド設立や、アームなどの半導体関連企業の買収。そしてアメリカの通信会社スプリントの9機ぶりの黒字化と、ソフトバンクグループのモバイルテクノロジーへの力の入れようが目立ちます。
モバイル分野。そしてその先のIoT(Internet of Things)の世界へとソフトバンクグループは向かっているのかもしれません。