革新的な企業1位
メガネは視力を調整する医療機器ではなく、すでにファッションの一部となっています。
創業からわずか6年。オンラインでメガネを販売する『Warby Parker(ワービーパーカー)』は、2015年にビジネス雑誌のファスト・カンパニーが選ぶ「最も革新的な企業ランキング」でアップルやサムスンを抑えて1位になりました。
その注目が集まる理由とはなにか。
低価格路線
日本では低価格路線で質のよいメガネを販売しているメーカーは少なくありません。
「Zoff」や「JINS」はその代表です。高機能でオシャレ。そのうえ1万円あれば買えてしまうという低価格路線です。
しかしアメリカはそうではないようです。
メガネメーカーの大手「ルックスオティカ」の影響が強く、傘下に持つ「オリバーピープル」や自社で生産している「レイバン」「オークリー」の値段を見れば一目瞭然です。
さらにルックスオティカはハイブランドの「シャネル」や「プラダ」などともライセンス生産をしているためメガネの値段には息がかかっている状態です。
2010年、Warby Parkerはメガネ業界に切り込みました。徹底的な無駄を省き、低価格路線で攻めました。
Warby Parkerは自社で一貫してメガネの製造を行いました。デザインから製造、そして店舗を持たずにオンライン販売にすることでコストを削減。しかし低価格でもハイクオリティーなメガネを作り出し、95ドルという価格を実現しました。
巨大企業が独占している事業に切り込むモデルとしては、これまでに紹介したひげ剃りの分野があります。
男性ならわかると思いますが、市販のひげ剃りメーカーは限られています。『ジレット』か『シック』ぐらいなものです。どちらも価格的には1000円ほどします。けして安くはありません。
ここに切り込んだのが『ダラー・シェーブ・クラブ』という企業です。
ひげ剃り本体を買えば、あとの替え刃が定期便で送られてくるというものです。その替え刃の値段が2枚刃5パックで月1ドルという破格の値段です。
ダラー・シェーブ・クラブはすでにユニリーバによって買収されていますが、そのビジネスモデルは同業他社も真似しています。
自宅で試着
メガネの購入を検討している人にとっては、そのメガネが自分の顔に合うかどうかも問題です。オンライン販売をしているWarby Parkerにとってもこれは問題でした。
そこでWarby Parkerは「Home Try-On」というサービスを始めました。
これは好きなアイテムを最大5つまで無料で5日間借りることができるものです。
利用者はウェブサイトから試したいメガネを選ぶと、約1週間で自宅に届きます。そして5日間使い倒して、送料無料で返却すればいいのです。
もし気に入ったものがあればサイトから購入。新品が届きます。
口コミの力
現在でもWarby Parkerはリアルな店舗で販売はしていません。
ニューヨークのソーホーの旗艦店をはじめ、アメリカ17州に数十店舗ありますが、そこでは試着のみです。正確にはその場で注文できますが、商品は後日送られてくることになっています。
オンライン販売で客が増えるのかと考えますが、Warby Parkerは口コミで成長したといっても過言ではありません。
メガネをはじめ、アイウエアはファッションとなっています。機能だけ求めるのであれば極端な話、目が悪ければレンズを変えれば済むわけで、フレームや形を気にすることはありません。
しかし形をシャープに、素材をチタンに、レンズは薄い色をつけて、ファッションの一部であるからこそ、そのようなことをメガネにも求めるわけです。
ならば誰かに見せたい見られたいという欲求からSNSなどに投稿という行動がおきます。お気に入りの服を買ったら誰かに見てもらいたいはずです。
友人との食事にWarby Parkerのメガネをかけていけば、会話の中で一度はメガネの話にもなるはずです。
「いいわねそのメガネ」
「Warby Parkerのメガネよ。これで95ドルなんだから」
「すてき! 安いのに作りもしっかりしてる」
「気に入ったアイテムを5個まで5日間試せるわ」
友人は帰宅後、早速ネットで検索するはずです。「Warby Parker」と。
Warby Parker Home Try-On Program
また、Warby Parkerは社会貢献にも積極的に力を入れています。
アイウエア1つが売れるごとに1つのメガネをNPOに寄付をする活動を行っています。
成長は続く
Warby Parkerの年間売上げは1億ドルを超えていると言われています。
すでにアメリカでは「安いメガネ企業」ではなく、ファッションアイテムの一部としてその地位を確立しています。
いずれ日本でのサービスも始まるかもしれません。そのとき日本企業はどのように迎え撃つのでしょうか。